最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)206号 判決 1956年11月01日
本籍並びに住居
長野県諏訪郡茅野町ちの三〇一二番地のロ
医師
小川晁
大正六年五月五日生
右に対する窃盗被告事件について、昭和三〇年一二月二一日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人日野魁の上告趣意中判例違反をいう点もあるが、原判決は、所論引用の判例と相反する判断をしているものとは認められないから、採るを得ないし(原判決は、「他人のカメラを自己の鞄の中に入れて持ち出す際にこれを売ろうとか自分の家で使つて見ようという判然した考がなくても、人に見付からなければ、家まで持つて帰ろうと思つて他人のカメラを自己の鞄の中に入れて持帰ることは、これ即ち他人の物を自己の所有物としようという意思であつて、特段の事情のない限り領得の意思があると認めるべきで、換言すれば、他人の物を勝手に自宅に持帰るということ自体が権利者を排除して所有者でなければできない行為をしているのであつて、犯人において持帰る時に将来の処分方法乃至利用方法が決定していることは必要ではないのである。」旨判示しているのであつて、所論のごとく「その経済的用法に従いこれを利用若しくは処分する意思がなくとも、他人の物を勝手に自宅に持帰ると云う行為自体から不法領得の意思があると認めるべきである」旨判示してはいないのである。)、その余は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また所論につき記録を調べても刑訴四一一条一号、三号を適用すべきものとは認められない。
よつて同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)